沢庵

昨秋に漬けた沢庵がやっと食べられるようになった。昨年は大根が豊作であったようで、あちらこちらの農家から大根をいただいた。とても年内に食べ切れる量ではない。土にでも埋めておけば冬中食べられるのだが、生憎庭は石だらけなので掘るのが大変なのである。そこでカミサンが指導しているコーラスグループでいつも美味しい沢庵を届けてくれる方に「沢庵の漬け方」をご教示頂いた。2週間程の天日干しが必要だが、夜は凍み上がるので必ず屋内に入れねばならぬと言う。カミサンが物干し竿に紐で50本程もの大根をぶら下げたはいいが、ステンレス製の物干し竿が折れるというトラブルを経て、カミサンもちょっと進化して竿2本を使うことで何とかぶら下げることに成功した。だがそれからの毎日が大変であった。朝夕、カミサンとワタクシで大根がぶら下がっている竿を肩に担いで部屋からデッキに出し入れする作業が思っていた以上に大変だったのである。昔オヤジが使っていた部屋からデッキまで距離は10m程度とはいえ、4mの竿を担いでドアを通り抜け2回直角に回らねばならない。とにかく重いし身長差もある。お猿のカゴやの如くマヌケな格好で、人には到底見せられない姿なのである。おまけにそもそも『沢庵用』に頂いた大根ではないから、太さもまちまち、長さもまちまちである。で、普通に考えれば「太い物同士」「細い物同士」「短い物同士」を紐でぶら下げておけば良さそうなのだが、そこはソレ、何せカミサンである。干し上がった大根とまだまだ干し足りない大根が混在することとなってしまったのである。途中で「これはOK、これはもう少し」との調整を経て、何とか干し終わり、カミサンも人類としての大きな進歩を得たことはメデタイことであった。それから2ヶ月、糠に漬け込まれた大根は立派な沢庵へと変身を遂げ、ついに昨日から食卓に上るようになったことは、これまた誠にメデタイことであった。カミサンも『初の沢庵漬けの成功』と『自らの進歩』を祝したのであろう、クマシロさんが焼いて下さった皿に綺麗に並べられた沢庵に、ワタクシは思わず吹き出したものである。ちょっと干しすぎたようだが、味はなかなかである。何本かを燻製機に入れて『いぶりがっこ』にしようかと考えている。DSCF7170(変換後)

でもって、また思い出してしまった。遠い昔、ワタクシのオフクロは『ぬか漬け』が上手だった。ワタクシがカミサンと結婚する頃、オフクロは病床にあり、彼女が何十年も育ててきた『ぬか床』はオフクロがアッチに逝ってからはカミサンの管理となり、『オフクロの形見のぬか床』も東の都から信州の田舎に引っ越すこととなった。ところが都で一人暮らしをしていたオヤジもこれまた年中入院したり、あっちを切ったり貼ったりの人であったから、その都度ワタクシの家族は『ぬか床』を車に積んでの移動となった。夏は特にイケナイ。いくら壺ごとビニール袋に密封しておいても車中の2時間強烈な匂いなのである。そんな幾年かを経てオヤジも田舎で同居することになったのであるが、何よりオヤジが亡きオフクロの『ぬか漬け』との再会を喜んでいたのはサイワイであった。ところがである、この『オフクロの形見のぬか床』が時々おかしくなる。塩の量、カラシの量、糠の種類、かき回し不足等々、カミサンの管理責任が厳しく問われるのであるが、その度に『離婚の危機』が持ち上がるのである。今夏も暑かったからであろう、おかしくなった。仕方ない、半分ほどの『形見』を捨て、糠や塩、昆布やカラシを足したりと一時は大騒ぎであった。まだ『オフクロの味』には完全に戻っていないが、かくして当面の『離婚の危機』は乗り越えられたのである。

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