ドツボに嵌った。デザインが決まらない。あとちょっとが描けない。イメージするものが見えているのだが、何かが足りず、何かが多い。何枚描いても決まらぬ。こうなるともうどうしようもない。毎度のことなのだが『線』が見えてくるまでどうしようもない。
外は快晴である。雪がまばゆい。山に行こうか、山スキーに行こうかと外をつい眺める。つい天気図を調べたりする。綺麗な風紋やシュカブラの中を歩きたいと考える。いやいやもう後一押しだと机に向かうが描けない。窓の外を眺める。裏庭の薪山が雪を被っている。そうそう、そろそろ薪をデッキに運んでおかねば・・・気が散る。
今朝は怖かった。夜中に降った雪が踏まれてテカテカに凍っている。ムスメを送る駅までの数Kmの下り坂はブレーキなんて下手に踏めない。ムスメに「お前、たまにはサボれよ。毎日学校になんぞに真面目に通っていたら碌な人間にならんぞ!」と説教をたれる。ムスメを降ろして、我が家までの登りである。向こうからスキーを屋根に積んだ車がフラフラしながら下って来る。ヤバそうである。ワタクシは左に寄って止まる。50mほどに近付いた敵は何を思ったかブレーキを踏んだようだ。完全にコントロールを失っている。回った。運転席のオニーサンの顔が引きつっているのが分かる。助手席のオネーチャンは何か叫んでいるようだ。やられたと思った瞬間、敵の車は真横を向き、田舎のベンツことワタクシのジムニーの2m手前で奇跡的に止まった。「スンマセン。四駆だから大丈夫だと思ったんスけど。やっぱチェーン付けなきゃ駄目ッスカね?」と金髪オニーサンが震えた声を出す。見たら、この都ナンバーの車、ノーマルタイヤである。「アホ、馬鹿、死ね」とは言わずに、「持ってるならそこで付けなきゃこの先下れないぞ」と、優しく教えてあげる。丁度道路から引っ込んだ車の修理工場の前だったので、そこに入れと指示するが、アクセルを踏みすぎて横を向いたままずり下がってくる。こちらが慌ててバックしてやる。何とか修理工場の前に入ったオニーサンは車から降りてきて最敬礼であったが、隣のオネーチャンはタバコを吸いながら助手席で知らんぷりである。「サッサと別れた方がいいぞ」と思わずオニーサンに人生の先輩として忠告したくなった。
またちょっと思い出した。3〜4年前の冬だったか、西友の雪の駐車場に外国製の派手な黄色の馬鹿でかい四駆が威張って止まっていた。何で威張っているかというと、駐車区域ではなく入り口の直ぐ脇にドンと止めてあるのだ。雪で狭くなっているのに誠に迷惑である。でも見慣れぬ凄い車に数人が見とれていた時、どう見てもカタギではない派手なイデタチの家族?がそれぞれ大量の買い物を持って現れ、ド派手な化粧に長い毛皮を着込んだ20代前半と思われるオネーチャンが「キャッ!」と叫んでこけた。雪で滑ったのであるが、ご丁寧に踵の高いブーツの両足は天を向き、生憎コートの前を止めていなかったものだからミニスカートから見事なおみ足は付け根まで全開のままお尻から着地した。更に悪いことに、両手に提げていたビニール袋には何本ものワインが入っていたものだから、雪はワイン色に染まった。もうどう見ても映画のワンシーンである。一瞬、沈黙が流れた次の瞬間、爆笑が巻き起こった。田舎とは言え何せ西友の入り口である。もう20人以上が笑い転げている。カタギに見えないオッソロしそうなオヤジが「見るな!見るな!馬鹿野郎!」と怒鳴り出したが、皆笑いこけている。で、ワタクシはどうしたかというと、ど派手なオネーチャンに手を差し伸べるべく、いや、あまりの光景に、そのぉ〜、ついつい両手を頭の上で叩いてしまったのである。こういう行為はどうも伝染するようである。取り囲んだ人がまるで沖縄のようにキャーキャー言いながら頭の上で手を叩きだしたのである。もうこうなったら全員映画のエキストラなのである。オッソロしいド派手オヤジは「見るな!見るな!」と喚きちらし、これまたド派手なオカーサンはムスメを起き上がらせようとするが、何せ彼女も都会用のブーツである。一緒にもがいて起き上がれない。「そんたら靴じゃ歩けねぇ〜わ」と通りがかりのオバーサンはお説教をするは、「そんたらところに車止めるな。邪魔、邪魔!」と怒るオヤジさんもいる。「ありゃ、映画俳優かね?」「うんにゃ、ヤクザじゃないの?」「ありゃカタギじゃないな」と、もう皆すごく楽しんでいる。ホウキを持った西友のオバサンも割れたワイン瓶をほっぽらかして笑っている。ほうほうの体でやっと馬鹿でかい車に乗り込み、窓から「馬鹿野郎!」とふて台詞を吐きながら立ち去るご一行様であったが、その時また自然発生的に拍手が巻き起こったのは映画の中で『悪代官を追い返した百姓』の如くであったのである。
さてデザインを続けよう・・・